「運用保守=底辺」と言われる理由|底辺で終わらせないためのポイントも解説
目次
ITエンジニアの仕事について「運用保守は底辺」と言われることがあります。
単純作業が多い、スキルが伸びにくい、夜間対応がつらい。
そんなイメージが先行しがちですが、それだけが運用保守の全てではありません。
本記事では、運用保守が「底辺」とみなされる背景を紐解きながら、実際の仕事内容や業務のやりがい、そしてキャリア形成の可能性について解説します。
運用保守の経験をどう活かし、どんなキャリアにつなげていけるのか、底辺で終わらせないために、今できることを一緒に考えてみましょう。
底辺と言われる「運用保守」とは?
運用保守とは、システムが安定して稼働し続けるように監視・管理・改善を行う仕事です。
業務内容は多岐にわたり、企業のIT基盤を守るうえで欠かせない役割を担っています。
ここでは「仕事内容」と「重要性」の2つの観点から運用保守の仕事について深掘りします。
仕事内容
具体的には、以下のような業務が行われています。
- サーバーやネットワークの監視
- エラーや障害が発生した際の対応
- バックアップの実施
- 定期的なメンテナンスやアップデート
これらは一見すると、ルーティンワークや単純作業のように見えるかもしれません。
しかし、こうした作業が滞れば、システムの安定性が損なわれ、企業活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
また、運用保守は開発と比較されることが珍しくありません。
開発が「新しいものを作る」役割だとすれば、運用保守は「作られたものを守る」ことが求められるのです。
両者は「どちらが上・下」と言えるものではなく、目的も性質も異なり、互いに補完し合う関係にあります。
運用保守は裏方の仕事ではありますが、その働きがなければ企業のIT基盤は揺らぎ、日常業務の継続すら難しくなります。
まさに、企業活動を根底から支える縁の下の力持ちといえるでしょう。
重要性
どれほど優れたシステムを構築しても、運用が不安定であれば、その価値を十分に活かすことはできません。
システムが常に稼働していることが前提となっている現代社会において、運用保守は企業の信頼を守る砦ともいえる存在です。
特にクラウドが普及した現代では、24時間365日稼働が当たり前となりつつあります。
こうした状況下でシステムダウンによる影響は、直接的な売上損失だけでなく、顧客からの信頼低下にもつながりかねません。
つまり運用保守の品質は、単なる技術的な安定性にとどまらず、企業のビジネス継続性そのものに直結する重要な要素となっています。
安定した運用があってこそ、システムは本来の力を発揮し、企業活動を支える基盤として機能します。
運用保守が「底辺」と言われる5つの理由
運用保守が底辺と言われてしまうのには、主に5つの理由があります。
- 単純作業が多い
- 障害対応・夜間対応ばかりできつい
- スキルアップしにくい
- 収入が低い
- AIに仕事を奪われている
ただし、こうした声の中には誤解や過小評価も含まれています。
そのまま受け取るのではなく、実際の現場の状況や可能性を知ることが大切です。
1.単純作業が多い
運用保守の現場では、日々のルーティンワークが多く発生します。
こうした業務は、マニュアルが整備されていることも多く、誰が取り組んでも同じ結果になるよう設計されている場合が多いです。
また、現場によっては顧客企業が定めたルールや手順に従って動くことが求められます。
自分の裁量で改善を加えたり、新しい技術を試したりすることが難しいケースもあるでしょう。
こうした背景から「単純作業ばかり」「誰でもできる」といったイメージが定着しやすく、結果的に「運用保守=底辺」というレッテルを貼られることも少なくありません。
2.障害対応・夜間対応ばかりできつい
システムは24時間365日稼働しており、障害はいつ発生するか分かりません。
そのため、夜間や休日に緊急対応を求められることもあり、生活リズムが乱れやすくなる傾向があります。
特に大規模なシステムほど、障害が業務に与える影響も大きく、対応には相当なプレッシャーが伴います。
システムを絶対に止めてはいけない環境でのトラブル対応は、技術力だけでなく冷静さや判断力も求められる場面が多く、精神的な負荷も少なくありません。
こうした状況が続くことで、次第に疲弊し「割に合わない」「つらい」と感じてしまう人もいます。
3.スキルアップしにくい
運用保守の仕事は、即戦力としての対応力が求められる一方で、成長の機会が限られているという矛盾を抱えています。
日々の業務は監視や報告などのルーティンワークが中心となり、技術を深掘りしたり、新しい分野に挑戦したりする時間を確保するのが難しいのが現状です。
また、成果が目に見えにくいことも、運用保守が評価されづらい要因の1つです。
実際には何も起きない状態を維持するために、日々の監視やメンテナンスなどが積み重ねられています。
しかし、その努力は「問題が起きなかった」という結果に埋もれてしまい、目に見える成果として評価されにくいのです。
さらに、障害が発生した際には、どれほど迅速かつ的確に対応しても「なぜ未然に防げなかったのか」と問われることもあります。
そんな環境の中で、技術的な挑戦は時にリスクとみなされることもあり、安定稼働の維持が優先されがちです。
その結果、技術的な好奇心を持っていても、それを実務で活かす場がなく、キャリアの停滞を感じる人も少なくありません。
4.収入が低い
運用保守は、IT業界の中でも比較的給与水準が低いとされています。
dodaの調査によると「運用/監視/保守」の平均年収は378万円であり、IT/通信分野の中でも低めの水準です。
この背景には、運用保守が「新しい価値を生む仕事」ではなく「既存のシステムを維持する仕事」とみなされている構造があります。
企業にとって運用保守は「コストをかけて維持している部門」と位置づけられることが多く、結果としてコスト削減の対象になりやすい側面があります。
そうした扱いの中で、人件費が抑えられ、報酬水準にも影響が及ぶケースは少なくありません。
加えて、多重下請け構造が常態化している現場では、実際に作業を担うエンジニアの手元に十分な報酬が届かないケースもあります。
元請けから下請け、孫請けへと業務が流れる中で報酬も分散される構造が、運用保守エンジニアの収入を低く抑える要因となっています。
5.AIに仕事を奪われている
AIや自動化ツールの普及により、かつて人が担っていた作業の多くが自動化されつつあります。
定型的でルール化しやすい運用保守業務の領域にもこの流れが及び、自動化が現実味を帯びてきました。
その結果「この仕事は将来的にAIに取って代わられるのではないか」という不安を抱くエンジニアが増えています。
仮に業務がこれまで通り続けられたとしても、単純作業が中心である運用保守の業務はスキルアップの機会が限られ、技術の進化に取り残される懸念もあるでしょう。
こうした不安は、運用保守に対する「誰でもできる」「機械で十分」といったイメージを強化し、 結果として「底辺職」と揶揄されるレッテルをさらに根深いものにしています。
「底辺だ」と言われる運用保守のやりがい
底辺だと言われてしまう運用保守でも、やりがいを感じながら働く人もいます。
- 直接フィードバックをもらえる
- 問題解決の達成感を得られる
- クライアントに継続的に関われる
運用保守の業務には確かに大変な面もありますが、その一方で他の職種では得られない魅力も存在します。
直接フィードバックをもらえる
運用保守の魅力の1つは、クライアントやユーザーから直接感謝の言葉をもらえる機会が多いことです。
例えば、システム障害を迅速に解決したり、トラブルの再発防止策を提案したりした時。
「助かりました」「すぐに対応してくれて安心しました」といった声を、現場で直接聞くことができます。
こうしたフィードバックは、自分の仕事が誰かの役に立っているという実感につながり、日々の業務に対するモチベーションを高めてくれます。
問題解決の達成感を得られる
障害対応やトラブルシューティングは、精神的にも時間的にも負荷の大きい業務です。
その一方で原因を突き止め、的確な対応によってシステムを復旧させた瞬間には、大きな達成感があります。
「どこが問題なのか」「どうすれば直るのか」を考えながら一歩ずつ解決に近づいていく過程は、地道ながらも技術者としての力を発揮できる場面です。
さらに、再発防止策や改善提案を通じて、システムの安定性の高まりを実感できるのも、運用保守ならではのやりがいです。
クライアントに継続的に関われる
クライアントと長期的な関係を築けることも運用保守の魅力の1つです。
日々のやり取りを通じて信頼を得ることで「この人に任せれば安心」と思ってもらえるようになり、改善提案や新しい案件を任されるチャンスが広がります。
こうした信頼関係が深まると、顧客との距離はぐっと近づき、単なる「作業者」ではなく「パートナー」として認識されるようになります。
その結果、設計やインフラ構築など、より上流の工程にステップアップする道が拓けることもあるでしょう。
底辺と言われる運用保守からのキャリア
「運用保守=底辺」と揶揄されることもありますが、実際の運用保守はITエンジニアとしての基礎力を養える重要なポジションです。
日々の業務を通じてシステム全体の構造や運用フローを把握する機会が多く、幅広い知識が自然と身につきます。
そのため、運用保守で経験を積んだエンジニアは、次のキャリアへステップアップしやすいといえるでしょう。
例えば、システム監視や運用業務で培った知見は、業務自動化やセキュリティ分野などに応用可能です。
運用保守で得た視点を活かしながら新たな技術を学ぶことで、これまで断片的だった知識がつながり、より体系的な理解へと発展します。
また、障害対応を通じて培われる「トラブル時の対応力」を活かして、アプリ開発に転向する選択肢もあります。
現場を通じて得た運用中のシステムへの理解は、設計段階での視野の広さにもつながり、システムの品質向上やチーム内での信頼関係の構築にも役立ちます。
このように、運用保守で得た経験は、上流工程や専門職への転向はもちろん、キャリアの幅を広げる大きな力となるでしょう。
運用保守を底辺で終わらせないためのポイント

運用保守にやりがいを持って取り組み、キャリアを築くためには、継続的な行動が欠かせません。
- 改善提案を意識する
- 仕組化・自動化のスキルを身に付ける
- キャリアのゴールを明確にする
- インプット・アウトプットを続ける
運用保守を「単なる作業」で終わらせるか「キャリアの基盤」として活かすかは、日々の意識と行動次第です。
受け身で業務をこなすだけでは成長は難しいですが、主体的に改善や学習に取り組むことで、確実にスキルとキャリアは広がります。
改善提案を意識する
運用保守の現場では、決められた作業を正確にこなすことが求められます。
しかし、それだけにとどまらず「どうすれば業務をもっと効率化できるか」「再発を防ぐには何を変えるべきか」といった改善意識を持つことが重要です。
例えば、報告書のテンプレートを見直して記入の手間を減らしたり、定型作業を自動化して人的ミスを防いだり。
現場のちょっとした不便を少しずつ解消していくことで、業務の質は着実に向上していきます。
こうした改善を積み重ねていくことで「単なる作業者」から「仕組みを作る側」へと役割が変わっていくでしょう。
現場にとって欠かせない存在として認められることで、自然と信頼も築かれ、提案や判断にも説得力が増します。
改善提案は、目の前の業務をより良くするだけでなく、自分自身の立ち位置を変えていく力にもなるのです。
仕組化・自動化のスキルを身に付ける
業務改善に向き合う中で、次に身につけたいのは仕組み化・自動化のスキルです。
運用保守の現場では定型的な作業が多く、仕組化・自動化のスキルは業務の質を高めるための大きな武器となります。
単純作業を効率化することで、限られた時間内で取り組める業務の量や幅が広がり、業務全体の生産性と安定性が向上するでしょう。
また、仕組化・自動化は、属人化しがちな業務を標準化し、誰もが安定して運用できる体制作りも可能になります。
こうした実践は、チーム全体の負担を減らすだけでなく、周囲からの信頼を高めることにもつながります。
改善を「考える人」から「実装できる人」へと進化することで、キャリアの幅も着実に広がるでしょう。
キャリアのゴールを明確にする
運用保守の業務は、ITエンジニアとしての基礎を築くうえで重要な経験です。
しかし、そこでキャリアを終わらせないためには、自身が最終的にどんなエンジニアになりたいのかを明確にすることが欠かせません。
「どの分野に専門性を持ちたいか」
「どのような役割を担いたいか」
このような目標があることで、必要なスキルセットや資格、実務経験を逆算し、計画的にキャリアを構築することが可能になります。
キャリア設計は単なる目標ではなく、自分の専門性を高め、価値あるポジションを築くための戦略的な取り組みです。
ゴールを持つことで日々の業務にも意味が生まれ、長期的な成長につながります。
監修者コメント

白川 聖悟SHIRAKAWA SEIGO
キャリアは柔軟に見直しながら築いていくもの
キャリアのゴールを明確にすることは、成長の方向性を定めるうえで欠かせません。
しかし、ゴールはあくまで「現時点での理想像」であり、経験を重ねる中で変化していくこともあります。
実際の業務を通じて「自分は運用より開発に興味があるかもしれない」「技術よりも業務改善に取り組みたい」と気づくこともあるでしょう。
こうした気づきは、単なる迷いではなく、自分の適性や価値観を深く理解するための重要なヒントです。
だからこそキャリア設計は「柔軟に見直すこと」が大切です。
最初に立てた目標に固執するのではなく、変化を受け入れ、目標を更新していくことで、より自分らしいキャリアが築けます。
インプット・アウトプットを続ける
運用保守の業務をキャリアの基礎として活かすためには、継続的な学習が欠かせません。
日々の業務で得た気づきや知見を記録・整理し、社内共有や技術記事として発信することで、知識の定着と構造化が進みます。
また、資格取得などを通じて体系的に知識を学ぶことで、運用の背景にある設計思想への理解が深まり、より上流の工程に関わる準備ができます。
インプットとアウトプットを意識的に繰り返すことは、単なる知識の蓄積にとどまらず、自分の専門性を育て、キャリアの選択肢を広げてくれます。
まとめ
運用保守は「底辺」と言われがちですが、実際には企業のIT基盤を支える重要なポジションです。
日々の業務には大変なこともありますが、その裏には確かな技術力と責任感が求められています。
大切なのは、運用保守でキャリアを終えるのではなく、そこで培った経験を土台に、スキルアップ・キャリアアップを目指す姿勢です。
経験を積みながら、次のステップに向けて学びを重ねていくことで、より上流の工程や責任あるポジションで活躍できる可能性が広がります。
弊社ESESはSES(システムエンジニアリングサービス)企業として、ITエンジニアをクライアント企業に派遣し、技術支援を行うサービスを提供しています。
ESESでは運用保守をはじめ多様な案件を扱っており、エンジニア自身が希望に応じて案件を選択することが可能です。
また、スキルアップやキャリア形成に向けたサポート体制も整えており、安心して業務に取り組める環境を提供しています。
ESESは、あなたが経験を積みながら理想のキャリアを築いていけるよう、技術面・環境面の両方から支援します。
キャリアに悩んだら、ぜひ一度ESESにご相談ください。










監修者コメント
白川 聖悟SHIRAKAWA SEIGO
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運用保守は本当にAIに置き換えられるのか?
AIや自動化ツールの進化により「運用保守の仕事は将来的にAIに置き換えられるのでは」という不安の声は確かに存在します。
しかし現段階では、運用保守の現場で自動化が十分に進んでいるとは言えません。
現場の抵抗感や業務の属人化、経営陣の理解不足など、様々な理由で自動化の導入は限定的になっています。
特に業務の棚卸しや手順の明文化には膨大な時間がかかるケースも多く、優先度が低く後回しにされることも珍しくありません。
こうした背景を踏まえると「AIによってすぐに仕事が奪われる」という懸念は、現段階では過度な心配といえるでしょう。
厚生労働省のアンケート調査でも、AIは業務の一部を支援・補完するものであり、既存の従業員の業務を全て代替するものではないと考える企業が多数を占めています。
また、AIの導入によって雇用量が減少する可能性はあるものの、それが今働いている人の失業につながるわけではないことも示されています。
つまり、現時点では「AIによる完全な代替」よりも「人とAIの協働」が現実的な方向性です。
そしてこの流れの中で重要なのは、AIや自動化ツールを使いこなす側になることです。
技術の進化を脅威ではなく、自分の可能性を広げるチャンスとして捉えましょう。
参考:厚生労働省「IoT・ビッグデータ・AI等が雇用・労働に与える影響に関する研究会 報告書」